連合東京

「LGBT」当事者の声を届ける
回路であってほしい

LGBT法連合会 事務局長
神谷 悠一さん

連合君

LGBT法連合会とはどのような組織で、どんな活動を行っているのでしょうか。

神谷悠一さん

神谷さん:L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)が連帯するための組織です。国や自治体に声を届けにくい状況に置かれていた性的マイノリティが協力して声をあげるため、2015年に発足しました。現在は全国87の団体で構成されていて、地域のブロック会議や各種委員会活動などを通じてLGBT等の当事者の意見を吸い上げ、国に届ける役割を果たしています。

連合君

ここ数年、LGBTに関する映画やドラマを目にすることが多くなりましたが、それはなぜでしょうか?

神谷悠一さん

神谷さん:いわゆる「LGBT」を題材にした漫画などは90年より前からありますし、運動も30年以上続いてきました。ただ、2011年に国連が「LGBT」に関する人権決議を採択し、日本も賛成したこと。今後は2020年には東京オリンピック、2025年には大阪万博があり、日本が国際社会から注目を集める時期にきています。その中で、やはり「LGBT」の問題はなんとかしなきゃいけないよね、という流れになってきたんじゃないでしょうか。

連合君

世界的に見て、日本のLGBT問題への対応は遅い方ですか?

神谷悠一さん

神谷さん:先進国の中では明らかに遅れていますね。私たちの上部団体であるILGA(International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association)の調査によると、日本は「良くも悪くもない」つまり「何もしていない」状態だと言われています。
ILGAが作成している世界地図があるんですが、青く塗られている国にはLGBT差別禁止の法律があって、青が濃いほど対応が進んでいます。赤く塗られた国では同性愛が禁止されていて、ひどいところでは死刑になったりします。この地図で、日本は白に寄っています。つまり「罰則はないけど保護もされない」ということです。先進国で差別禁止法が全く整備がされていないのは日本含めた数カ国のみなので、やはり遅れていると言わざるを得ないですね。

連合君

神谷さんは、LGBT法連合会の社会的な役割をどのように感じていますか。

神谷悠一さん

神谷さん:LGBT法連合会の事務局長をお引き受けして、「多様性って実はものすごく難しいんだな」とも思うようになりました。L・G・B・Tそれぞれが行ってきた運動の背景も違うし、みんな職業も違う。会議でも、お互いが同じことを言っているつもりで実は全然違う認識をしていたなんてことも、結成当初はよくありました。
その状況からひとつの組織としての文化をつくりあげ、意見を練りあげていくことはとても難しいです。けれども、それをやることによって本当にいい意見が出てくるんですね。“文殊の知恵”じゃないですけど、どの角度から見ても全員が納得できて、より到達点の高いものができあがる。これは非常に意義のあることです。多様性の難しさを乗り越えながら、国に声を届けていく、そこにLGBT法連合会の役割があるのだと思っています。

連合君

個人では届けられない声を、団体になって届ける。労働組合と似たところがありますね。

神谷悠一さん

神谷さん:そのとおりです。弱い立場の人は人権が侵害されてしまう、だから集まって対抗する。まさに労組との共通点ですね。「LGBT」という言葉も、少数者が連帯するために生まれたものですから。

連合君

連合の調査でも、性的マイノリティの当事者は8%いると言われていますが、私たちはまだ十分に理解しているとは言いきれない状況です。この問題の難しさはどこにあるのでしょうか。

神谷悠一さん

神谷さん:問題が認識されにくい理由のひとつに「見えにくさ」があります。当事者はなかなか声をあげられないことが多く、すぐそばに困難を抱えた人がいても、周囲がそれを認識しづらいんです。
「LGBT」に限らず、どんな問題でも当事者の気持ちを100%理解するのは難しいものですよね。それでも、ある程度の知識があれば、当事者がどんな言動に傷つくのか、周囲がどんなことに気を付けたらいいのかは見えてくるはず。そういう情報を職場や学校で共有していくことで、「見えにくさ」という課題を乗り越えることは可能だと思っています。

連合君

LGBT当事者を無自覚に傷つけてしまわないために、私たちは何に気をつけるべきですか? また、当事者から相談を受けたときはどのように接したらいいのでしょうか。

神谷悠一さん

神谷さん:「ホモ」や「オカマ」などの言葉が蔑称であることはよく知られるようになってきましたが、他にも何気なく使っている言葉が適切かどうか、傷つけるものとなっていないか、今一度振り返ってみてください。むやみに性別を引き合いに出さないことも大切ですね。
相談を受けた時は驚かず、落ち着いて受け止めることが大事ですね。また、相談によって得た情報の扱い方には十分な配慮が必要です。性的指向や性自認の情報は非常にセンシティブなもの。
これらを最低限心に留めておけば、基本は“人と人”ですから、気負いなく接していただければと思います。

連合君

「LGBT」当事者の方たちの話を聞くと、割と幼少期に、性に対する違和感があると聞きます。子どもたちが性に縛られることなく、のびのびと生きられるようにするためには、どのような教育が求められているのでしょうか。

神谷悠一さん

神谷さん:例えば小さな子ども向けに、障がいのある人や肌の色が違う人、同性カップルなどが登場する絵本があります。幼い頃からそういった教材に触れ、年齢に応じた適切な教育を受けることによって、かなりの効果が出ると思います。
そのためには、学校の先生が正確な知識をもつことが非常に重要ですね。文科省には、教員養成課程に「LGBT」に関する教育を取り入れることをぜひ検討していただきたいです。

連合君

最後に、連合東京に期待することを教えてください。

神谷悠一さん

神谷さん:「LGBT」当事者は長い間、政策や施策の議論の場に入ることのできない状況にいました。学校や職場で周囲に打ち明けづらいこともあり、「議論を積み上げ、意思決定し、声をあげていく」という、労働組合等、さまざまな団体が培ってきた意思決定の手法に入りにくい部分があるんです。職場でのカミングアウトも勇気のいることですし、カミングアウトできなければ、コミュニケーションが取りづらく、飲み会も参加しづらいという人も少なからずいます。そのような点を意識しつつ、組合員の中にいる当事者の声を吸い上げ、一緒に声を届けられる回路になっていただきたいですね。

インタビューを伺ったメンバーと共に

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